サイバー大学を退職しました
私は、3月31日を持って2年間勤務したサイバー大学を退職しました。2年間という短い期間、実際に授業を担当したのはそのうちの1年半とさらに短い期間でしたが、やる気にあふれる多くの学生に出会い、そして教育のことを真剣に考えている先生方と知り合うことができたことは、私にとって大きな財産になりました。
私の授業に真剣に取り組んでくれだ学生の皆さんからは、大いに刺激を受けました。そして、授業の準備をしたり、いただいた質問に回答したりすることを通して、私自身も自分の知識の再確認をし、そして最新の動向を知ることができ、大変勉強になりました。演習科目では、オンラインの大学では決して簡単ではないグループワークによるWebサイト制作を課しましたが、多くの皆さんがあきらめることなく取り組み、結果としてすばらしい成果物を作ってくださいました。しかし、ネットワーク上のコミュニケーションだけでは解決が難しい問題なども見えてきて、これからもWebやコンピュータ・ネットワークにかかわっていこうと考えている私にとっては貴重な経験になりました。
私にとって、IT総合学部を中心とした同僚の先生方との出会いも大変大きなものでした。皆さんそれぞれにその分野の専門家ですから、雑談をしているだけでも大いに刺激を受けました。加えて、大学教育のあり方や技術的なことなどについて真剣に議論したことも、私にとっては得難い経験となりました。
私の拙い授業にお付き合いいただき、真剣に取り組んでくださった学生の皆さん、そしていろいろな面で経験不足の私に同僚として接してくださった先生方に対して、ここに改めて感謝を申し上げます。ありがとうございます。
私がサイバー大学を退職する決意を固めるに到った理由はいくつかありますが、以下の三つが特に重要なものでした。
まず、私がサイバー大学で実現したいと考えていた真にアクセシブルなオンラインの学習環境と、サイバー大学の経営にかかわる人々の持つその点の意識とが必ずしも一致しなかったという点が挙げられます。アクセシビリティに関する授業を行う者として、たとえ時間がかかっても理想的なものを実現したいと考えていました。サイバー大学に着任する以前、初代IT総合学部長の故石田晴久先生は、この点について大いに共感してくださいました。しかし、残念ながら経営に関わる全ての人が同じように考えていたわけではなかったというのが現実だったようです。
二つ目の点は、私がサイバー大学の授業を通していろいろなことを伝えようとしてきたのは、より多くの人にアクセシビリティについて考えていただきたいという考えがあってのことだったのですが、そうであるならば、大学という枠組みにとらわれず、自分で情報発信をしていく方がよいのではないかと考えたということです。アクセシビリティについて一人でも多くの人に意識を持ってもらい、共に考えていく場を作るというのは、私が学生の頃から取り組み続けてきていることです。もしサイバー大学の講義を担当しながら、それとは別の個人的な活動として情報発信を行うということができれば、それが理想的な形だったでしょう。しかし、サイバー大学に着任した後の2年間の生活を振り返ると、このような活動を行うための十分な時間を確保するのは難しい状況でした。そこで私は、サイバー大学で限られた人々に情報を伝えるのではなく、より多くの人に情報を伝えるために同じ時間、同じ労力を使いたいと考えました。そしてその中で、アクセシブルな情報提供のあり方について実践を通して考えを深めていきたいと考えました。
三つ目の点は、今後の卒業研究や担任制のことを考えると、学生の皆さんに最も迷惑をかけないようにするためには、今このタイミングで退職することが最善だという判断をしたということです。そうは言っても、私が担当する予定だった授業は休講となり、学生の中には計画が狂ってしまったという方もいらっしゃるかもしれず、その意味ではやはり迷惑をかける結果になってしまいました。この点について、お詫びいたします。
なお、私がこれまで担当してきた「Web概論」、「Web基礎演習」と、今学期 (2009年度春学期) に新たに開講予定だった「ユニバーサル・デザイン論」、「ユニバーサル・デザイン演習」については、上述の通り今学期は休講となります。また、来学期以降のこれらの科目と、来学期に新たに開講予定の「ソフトウェア・アクセシビリティ論」、「アクセシビリティ開発演習」については、後任の教員が担当することになります。後任の教員については、サイバー大学で現在検討しているものと思います。ところで、今学期私が担当する科目が休講になっていることについて、大学側では「担当教員が病気療養中のため」という説明をするということを聞いています。しかし、私自身は1月に風邪で医師の診察を受けた以外、病気とは無縁の生活をしておりますし、言うまでもなく1月に引いた風邪も完治しています。
最後に、このような機会を私にくださり、世間知らずの私を暖かく見守り、時には私の意見にも耳を傾けてくださった故石田晴久先生に、心より感謝と哀悼の意を表します。本当にありがとうございます。そして謹んでご冥福をお祈りいたします。